営業をしていると、こんな経験はないでしょうか。
- 希望の条件は合っている
- お客様の反応も悪くない
- むしろ前向きに見えていた
それなのに、
- 「一旦持ち帰ります」
- 「やっぱり今回は見送ります」
- 「家族に反対されて…」
最後の最後で、商談がひっくり返る・・・
ここで多くの営業マンはこう考えがちです。
- 「提案が弱かったのではないか」
- 「クロージングが甘かったのではないか」
- 「もっと押すべきだったのではないか」
しかし、結論から言うとそれは違います。
今回の記事では、特に営業未経験、新人の営業マンにとって覚えておいていただきたい営業の進め方のポイントを解説していきます。
営業は“クロージング”で決まらない
営業は、クロージングだで決まりません。
正確に言うと、
クロージングする時点で、すでに結果は“決まっている”
では、なぜクロージングの段階で既に決まっているのか?
それが今回のテーマである
「前振り」
です。
前振りとは何か?
ここでいう前振りとは、単なる言葉や話の導入ではありません。
意思決定を阻害する要因を、事前に処理しておく行為
を指します。
- 不安
- 懸念
- 誤解
- 他者の影響(家族・友人)
- 過剰な期待
これらを放置したままクロージングに入ると、どうなるでしょうか・・・?
前振りがないと起こること
基本的に、商談の前半ではお客様は「欲しい理由」を探しています。
「子供が5歳で大きくなって、物が増えて、2LDKだと部屋が狭くてストレスが多いから、広い家をそろそろ買いたいと思ってる。」などです。
しかし、契約直前になると、人は一変します。
「買わない理由」を探し始める
ここが、今回の最も重要なポイントです。
なぜ人は直前で迷うのか?(心理構造)
これは営業スキルの問題ではなく、人間の構造の問題として、以下の4点は理解しておくと良いでしょう。
①損失回避(Prospect Theory)
人は「得をすること」よりも「損をすること」を強く避ける傾向があります。これは誰しもが持っている脳機能の特性です。
つまり、購入を決断する直前になって
- 買った後に後悔しないか?
- 損をしないか?
- 失敗ではないか?
という思考に一気に切り替わるのが人間の特性です。
②認知的不協和
人は大きな決断をしようとすればするほど、
- 「本当にこれでいいのか?」
- 「間違っているのではないか?」
という不安を感じる生き物です。
その不安を解消するために、
「やめる理由」を探し始める
失敗する、間違う、選択に後悔する可能性があるのであれば、「今のままを維持する」方が得策だと考えて辞める理由を探し始めるのです。
③社会的影響(相談したくなる理由)
よくあるのが
という言葉。これもよくあります。
しかし、これは単なる決断の保留ではありません。
決断の“責任を分散したい”という心理の現れ
なのです。
つまり、自分で考えて決断したのは良いが、失敗だったら嫌なので誰かに相談して失敗した時に自分に降りかかる責任の重圧を分散したいのです。
しかし、ここで注意すべきことがあります。
多くの場合、購入しようかを迷っている相談を受けた第三者は、ほぼ確実に本人に対してこう答えるでしょう。
「やめた方がいいんじゃない?」
なぜか?
相談を受けた側は、アドバイスしたことに対して責任を取れない、変な責任を背負うことになるのは避けたいからです。
④決断回避(現状維持バイアス)
人は基本的に
「変わらない方」を選ぶ生き物
- 今のままでいいのではないか
- 急がなくてもいいのではないか
という方向に、無意識的に思考が引っ張られ、結果として新しいものを得るよりも今まなの現状維持を好むのです。
検討初期と決断直前は別物
この人間特有の心理を理解していない営業は多く、お客様の心理はフェーズによって全く異なってくることを知らない人が多いです。
思考検討中:欲しい理由を探す
決断直前・買わない理由を探す
つまり、同じ人間でも、タイミングによって真逆の思考になるということです。この点は十分に理解しておく必要があります。
ここで起きる“営業の勘違い”
多くの営業はこう考えてしまいがちです。
- 「さっきまで反応が良かったから大丈夫だろう」
- 「ここまで来たからきっと決まるだろう」
だが、実際は逆なのです。
ここからが営業として一番崩れやすいポイントなのです。
問題は提案やクロージングではない
ここまでを整理すると、
- 提案が悪いから決まらないのではない
- クロージングが弱いからでもない
問題は、
決断直前に発生する“不安”を処理していないこと
にあります。そしてその不安は、
クロージングの場で解決しようとしても手遅れ
ということなのです。
営業に必要な視点とは
では、どのように対処しておけば良いのでしょうか?
答えはシンプルです。
不安は「後」ではなく「前」で処理する
これが「前振り」の本質です。
前振りの正体:3つの機能
前半で整理した通り、前振りとは
意思決定を阻害する要因を事前に処理する行為
です。
では、具体的に何をしているのか。前振りは大きく3つの機能に分解できます。
まずはその機能について解説していきます。
①期待値コントロール
まず抑えておおきたいのは
人は「期待していた基準」と「実際の体験」を無意識に比較して評価する
ということです。
- 期待 > 現実
(現実よりも期待値が大きい)
→ 不満を抱く
- 期待 < 現実
(期待値よりも現実が大きい)
→満足・感動する
ここでは、商品や提案内容の良し悪しではなく、
「期待とのギャップ」で評価されている
という点がポイントです。
つまり営業でやるべきことは
期待を上げることではなく、相手の期待値をコントロールすること
に尽きます。
「次に行く物件は、新しくて広くて駅も近くて良いですよ」と期待値を上げすぎてしまうと、もし1つでも気に入らないポイントを見つけてしまった際に、一気に気持ちが萎えてしまいます。
むしろ重要なのは、
あえて少し期待値を下げておくこと
ポイントは「少し」です。
なぜ「下げる」とうまくいくのか
期待値を適切に抑えておくと、何が起きるか。
実際の体験したことが、低めに設定しておいた当初の期待値よりも少しでも上振れした瞬間に、
- 「思ったより良かった!」
- 「想像よりスムーズだった!」
- 「意外と早かった!」
というポジティブな評価に変わります。
つまり、
同じ内容でも見え方が代わり、評価が逆転する
ということです。
次に行く物件は、新しくて広くて駅も近いですが、音が響いて聞こえる可能性もありますので、その点確認しましょう
このように、予めネガティブになりそうなポイントを伝えて、期待値を上げすぎないことが大事です。
もちろん、ネガティブばかりを並べて期待値を下げすぎてもお客様の購買意欲が削がれてしまうだけですから、そのバランスには注意が必要です。
②理由付け
人は、行動する理由がないと動きません。
- なぜ今やるのか?
- なぜこれを見るのか?
- なぜ判断するのか?
これが曖昧だと、すべての行動が止まります。
逆に言えば、
理由が明確なほど、人は迷わず動く
ということです。
理由付けトークの例として
「今回この物件を先に見ていただきたい理由なんですが、条件に近いものの中でも“基準になる物件”だからです。ここを一度見ておくと、『何が良くて何が足りないか』が明確になるので、この後の物件選びの精度が一気に上がります。結果的に無駄な内見を減らせるので、まずは一度ご覧いただくのが効率的だと思います。」常に、「お客様にとって、なぜこれをやる必要があるのか?」という行動理由を明確に伝えられるようししておくと良いでしょう。
お客様の中で不安や疑問なく、行動に移しやすくなります。
③布石(未来の会話設計)
ここが今回の本題で最も重要であり、最も抜けやすいところです。
布石とは、
後で起こる会話を、先に設計しておくこと
とも言えます。
- 「親に相談したい」と言われる未来
- 「やっぱり不安です」と言われる未来
- 「思っていたのと違う」と言われる未来
これら、よくある断り文句として言われてしまう未来を“先に潰しておく”こと。
言い換えれば「断り文句を言われないようにする」「断りそうな理由を先に確認しておく」ということです。
購入に際してはご両親へのご相談などはされなくて大丈夫ですか?
不安になってしまう方がいらっしゃるので、しっかり最初の段階で判断基準を明確にしていきましょう!
思ってたのと違う、とならないように絶対NGなポイントを最初にお伺いしてもよろしいですか?
未来に予見できる会話を予め設計しておくだけでも、会話の主導権を常に持ちながら営業を展開することができます。
4つの具体的な技術
ここからは、すべて「前振り」として使う技術として、さらにテクニックを解説していきましょう。
単体のテクニックとしてではなく、会話設計の一部として理解しておくと良いでしょう。
①両面提示(デメリットの先出し)
なぜ両面提示が必要なのか
多くの営業は、商品・サービスのメリットや、会社の優位性ばかりを伝えがちです。
しかし、これは短期的には良くても、最終的に崩れる要因になります。
その理由はシンプルで、
後出しのデメリットは裏切りになる
からです。
「それ、先に言っておいてよ!」「予め知ってたら違うことを考えたのに!」と、後になってから信頼を失墜する可能性があります。
構造
メリットのみ提示すると・・・
→ 期待値が過剰に高くなる
→ 後出しでデメリットを伝える
→ 信頼や購入意欲が一気に低下する
→ キャンセルになる
この負のスパイラルを起こす可能性があるため、デメリットは先に伝えると良いでしょう。
使い方
デメリットは、
“感情が上がっている時”に伝える
これがベストです。
商談中、お客様との会話が弾んでいる、気に入っている様子、著しく反応が良い、などの場面です。
この感情が上がっている時に伝えることで
ということに繋がります。
または、商談の序盤のまだ何の感情が大きく動いていない段階で伝えることも有効です。
このタイミングで共有しておくことで、「後から出てきた情報」という不信感を防ぎ、最初から誠実な印象を与えることができます。
結果として、お客様は安心して情報を受け取る状態になり、その後の提案全体に対する信頼度を高めることにつながります。
■トーク例
「すごく条件には合っていると思います!
そのうえで1点だけ、正直にお伝えすると、このエリアは朝夕の時間帯によって少し車通りが多くなります。その分、この価格帯でこの広さが取れている、という側面もあります。」
「最初に前提としてお伝えしておきたいのですが、今回のご希望条件だと、どうしてもいくつかネガティブポイントも出てきます。例えば、利便性が高い反面、朝夕は少し車通りが多くなる傾向があります。ただ、その分この価格帯でこの広さが確保できている、という背景があります。このあたりも含めて、一緒に優先順位を整理しながら見ていければと思います。」
ポイント
- デメリットをただの“欠点”として捉えるのではなく交換条件として伝える
- 「デメリットがあるからダメ」ではなく「デメリットがあるからこの価格である」と結びつける
②比較・選択させる(A or B)
よくある間違い
商談の後半になって
のような二択で迫る質問をする営業マンがいます。
これはお客様からすると、完全にプレッシャーになります。
■本質
ここで我々が知っておかなければいけない本質は
人は“決めさせられる”と拒否するが、“自分で決める”と納得する
ということです。
誰も、説得されて買う人はいません。自ら納得して、自らの意思で購入するのです。
正しい設計
これに尽きます。
「やりますか?やめますか?」
「買いますか?買いませんか?」
という究極に二択の問いではなく、
「このエリアで進めるか、少し広げて条件優先で探すか、どちらにしますか?」
のような、どちらを選択しても検討が前に進む選択肢を与えると良いです。
重要ポイント
ここで大事なのは、この質問はお客様を誘導しているのではなく、
意思決定の支援をしている
ということです。
この認識を忘れないようにしましょう。
③購入前提で話す(仮定クロージング)
なぜ効くのか
人はイメージできるものを選びやすい、という傾向があります。
逆に言えば、イメージできないものは選びにくい、ということです。
やること
「購入後の未来」を具体的に話す
これが大事になってきます。
実際に購入していなくても、「仮に購入したら…」という言葉と共に、購入後の未来を一緒に考えてみるのです。
例:
- 「ご購入いただいた場合、家具はどのように配置されますか?」
- 「購入されたとしたら、引っ越しはいつ頃をイメージされていますか?」
- 「こちらのお部屋はどのようにお使いになりたいですか?」
効果
この未来を見せることによる効果は
- お客様の中で購入に対する現実感が増す
- ポジティブな感情が強まる
- “もう決めた状態”に無意識的に近づく
これも、選びやすくなるためにイメージしてもらうことが重要です。
④期待値を下げる
例えば、資料をお送りする際の伝え方一つでも結果は変わります。
- NG例:
「最短で送ります!」「すぐ対応できます!」
→ 「すぐにやってくれるんだ!」と期待値が最大まで上がる
→ 少しでも遅れると一気に不満に変わる
- OK例:
「通常ですと、お送りするまでこれくらいお時間いただくことが多いです。ただ、状況によってはもう少し早く対応できる可能性もあります!」
→ 期待値を適切に設定
→ 実際に宣言よりも早く届くと期待よりも上振れになって評価UP
価格交渉などの場面でも同様です。
- 最初から最大値下げ額を提示する
→ それ以上の余地がなくなる
→ 期待を超えられない
一方で、
- あえて値下げに余白を残して提示する
→ 最後に「もう一押し、価格を交渉しました」と伝えられる
→ 「頑張ってくれたんだ!」と納得感・満足感が高まる
価格・交渉余地の期待値をコントロールするトークとして
物件価格についてですが、売主様もかなり市場相場を踏まえて設定されているため、大きな値下げは正直難しいケースが多いです。ただ、タイミングや条件次第では多少のご相談ができる可能性もありますので、そのあたりはこちらでしっかり交渉していきます。
このように「大きく下がる期待」を先に抑え、しかしながら“ゼロではない余地”を残す。そして最後に「頑張った感」を演出できる余白を作ると、納得感も生まれやすくなります。
本質
営業側で意図的に期待値を設計する
この期待値に関して何も意識しなければ、
- お客様は都合よく勝手に解釈する
- 勝手に期待値が上がったり下がったりする
そしてその結果、
営業側がコントロールできない状態で良し悪しを評価されてしまう
ということになります。
だからこそ重要なのは、
- あえて少し厳しめに伝える
- あえて余白を残す
- あえて過度な期待を持たせない
などという「前振り」が重要になってくるのです。
まとめ:営業とは“前振りの設計”である
営業において成果を分けるのは、提案力やクロージング力ではありません。
すべては、その前段階でどれだけ意思決定の環境を設計できているかにかかっています。
人は決断直前になると必ず迷い、不安を探し、現状維持に引っ張られます。
この構造を理解せずに、最後の一押しだけで決めようとするから商談が一気に崩れるのです。
だからこそ重要なのは、不安・懸念・期待値・他者の影響といった要素を、あらかじめ前振りとして処理しておくことです。
営業とは「売ること」ではなく、「決められない人が納得して決められる状態をつくること」。
その設計ができているかどうかが、結果のすべてを左右します。