「予定を決める」「条件を固める」とは何か?【不動産売買仲介営業】
営業を始めると、先輩や上司から何度も言われる言葉があります。
「次の予定を決めてこい。」
「条件を固めてこい。」
不動産営業だけではありません。
どんな営業会社でも一度は耳にする言葉でしょう。
しかし、新人営業マンに
「予定を決めるとは何ですか?」
「条件が固まった状態とは何ですか?」
と質問すると、明確に答えられる人はほとんどいません。
「次回の約束が取れた状態です。」
「お客様の希望条件が決まった状態です。」
おそらく、このような答えが返ってくるでしょう。
もちろん間違いではありません。
ですが、それだけでは営業はうまくいきません。
なぜなら、お客様から
「夫婦で話し合ってから連絡します。」
と言われたにもかかわらず、その後まったく連絡が来なくなる。
「このエリアで探します。」
と言っていたのに、気が付けば別の会社で、別のエリアの物件を契約している。
そんな経験を、多くの営業マンが一度はしているからです。
もし「予定が決まっていた」「条件が固まっていた」のなら、このようなことは起こらないはずです。
つまり、多くの営業マンは「決まったつもり」「固まったつもり」になっているだけなのです。
この記事では、
「予定を決める」
「条件を固める」
という営業現場で当たり前のように使われている言葉を、一度ゼロから整理していきます。
ここを理解すると、
・約束が守られない理由
・条件がブレる理由
・お客様が行動しない理由
これらが驚くほどシンプルに見えてくるはずです。
「決まった」と思っているのは営業マンだけ
お客様から
「夫婦で相談してからご連絡します。」
と言われる。
営業マンは
「ありがとうございます。ご連絡お待ちしております。」
と笑顔で送り出す。
ところが、
- 一週間経っても連絡は来ない…
- こちらから電話をしても出てもらえない…
- メッセージを送っても既読にならない…
いわゆる”音信不通”です。
これは新人営業マンほど多く経験します。
また、
「○○市で探しています。」
と聞いていたのに、後日連絡をすると、隣の市の物件で契約していた。
そんなことも珍しくありません。
営業マンからすると、
「ちゃんと約束したのに・・・」
「条件も聞いていたのに・・・」
と思います。
しかし、ここに大きな勘違いがあります。
それは、
営業マンは”決まった”と思っていても、お客様は何も決めていない。
ということです。
例えば、
「夫婦で話し合ってから連絡します。」
この言葉だけを見ると、約束したように聞こえます。
しかし実際には、
「『連絡する』と言ってこの場を終わらせよう」
程度の温度感で話しているお客様も少なくありません。
営業マンだけが、
「話し合った結果を連絡をもらえる!」
と思い込んでいるケースは多々あります。
つまり、
言葉は交わした。
しかし、
行動は決まっていない。
これが現実です。

営業の世界では、この違いが非常に重要になります。
行動する設計を作れていたか?
さらに考えてみましょう。
もし本当にお客様が
「あなたに必ず連絡します!」
と決めていたなら、
音信不通になるでしょうか。
電話に出ないでしょうか。
約束を忘れるでしょうか。
おそらく違います。
行動しなかったということは、
その時点ではまだ、
「連絡する理由」
が十分ではなかったということです。
営業マンはここを見誤ってはいけません。
「約束したのに!」
ではなく、
「行動できる状態まで設計できていなかった。」
この視点が非常に大切なのです。
約束が守られないのは、お客様のせいではない
営業をしていると、
「また連絡が来ない。」
「また書類を送ってくれない。」
「また電話に出てもらえない。」
そんな場面に何度も出会います。
すると、多くの新人営業マンは、
「このお客様はルーズなんだ。」
「約束を守らない人なんだ。」
と考えてしまいがちです。
ですが、本当にそうでしょうか。
実はここで考え方を変えるだけで、営業は大きく変わります。
約束が守られなかった。
これは、お客様の性格の問題ではなく、
営業プロセスの設計不足
である可能性が非常に高いのです。
例えば、
「事前審査の書類を送ってください。」
だけ伝えたとします。
すると、お客様からすると、
「時間がある時でいいかな。」
「来週でもいいかな。」
という認識になります。
一方で営業マンは、
「今日送ってくれるだろう。」
と思っている。
この時点で認識にズレが生まれています。

約束が守られないのではありません。
最初から約束になっていなかったのです。
人はやる理由がないと動かない
営業マンの都合の約束ではお客様は動きません。
「提出期限があるので。」
「話を前にすすめたいので。」
「今月の契約にしたいので。」
「上司に言われているので。」
これらは営業マン側の事情であって
お客様には関係ありません。
お客様は営業マンを助けるために住宅を買うわけではありません。
会社の売上を作るためでもありません。
営業マンのノルマを達成させるためでもありません。
自分自身の暮らしを良くするために住宅を購入するのです。
だから、お客様が住宅購入に向けて行動する理由は、
自分にメリットがあるから
これだけです。
だからこそ営業マンは、
「何をして欲しいか。」
ではなく、
「それをすることで、お客様にどんなメリットがあるのか。」
ここまで伝えなければなりません。
お客様が動く理由は何なのか?を設計する
例えば、
「明日までに事前審査の書類をご提出ください。」
だけでは弱いのです。
そうではなく、
「明日までにご提出いただければ、次回ご見学の時には借入可能額や月々のお支払いが明確になります。その状態で物件をご覧いただけるので、ご予算に合った物件だけを効率良く比較できます。」
ここまで説明できれば、お客様は初めて
「それなら今日出しておこう。」
という理由を持てます。
営業が上手い人ほど、この理由づくりが上手なのです。

つまり、
営業マンが伝えるべきなのはお願いではなく、お客様が動く理由です。
約束が守られない営業マンと、約束を守ってもらえる営業マン。
その違いは、話し方でも営業テクニックでもなく
「なぜ、その行動がお客様に必要なのか。」
そこまで設計できているかどうか。
営業の差は、実はここから始まっています。
自分が営業を頑張る時も同じ
人が行動を起こすのは、
「自分にとって意味がある」と感じた時だけです。
これは営業だけではなく、私たち自身も同じです。
例えば、会社で研修を受けたり、営業ロープレをしたり、知識を勉強したりするのも、ただ「やれと言われたから」だけでは続きません。
あなたは、なぜ、不動産知識の習得を頑張るのでしょうか?
- 営業で成果を出したい。
- お客様に自信を持って提案したい。
- 収入を増やしたい。
- 家族を支えたい。
- より良い生活を送りたい。
- その先にある自分の未来を実現したい。
それぞれ理由があるから、人は時間を使い、努力を続けられるのです。
もし何もやる理由がなければどうでしょう。
毎日何時間も研修を受けたり、休日までロープレをしたりする人はいません。
つまり、
行動の前には、必ず理由がある。
これは人間の大前提なのです。
「決める」とは、6W1Hが完成した状態
では、営業でいう「予定が決まった」とは、具体的にどのような状態なのでしょうか。
「来週また会います。」
「電話します。」
「ご連絡いただきます。」
これだけで決まったと思ってしまいますが、
この状態では曖昧さが多く残っています。
営業でいう「決まった」とは、
誰が聞いても同じ行動をイメージできる状態です。
そのために必要なのが、6W1Hです。
営業では特に、「Why」を含めた6W1Hが重要になります。
例えば、
「来週ご連絡ください。」
という約束。
一見すると問題ないように見えます。しかし、
・来週のいつなのか
・何時までなのか
・誰が連絡するのか
・電話なのかLINEなのか
・何について連絡するのか
・なぜそのタイミングなのか
これらが何一つ決まっていません。
これでは、お客様の頭の中には具体的な行動が描けません。
結果として、
「仕事で忙しかった。」
「忘れていました。」
「また今度でいいかな。」
となってしまいます。
一方で、
「ご夫婦でお話し合いをされた結果を、来週火曜日の午前10時までに、お電話でご連絡ください。その内容をもとに、次回はご条件により近い物件だけを整理してご提案いたします。」
ここまで伝えればどうでしょう。
お客様は、
いつ、
何を、
どうやって、
なぜ行うのか、
が明確になります。
これが営業でいう
「予定を決める」
ということです。

営業ができる人ほど、予定の設定を曖昧に終わらせません。
一方、営業が苦戦する人ほど、
「また連絡します。」
「来週ぐらいに。」
という言葉で終わらせてしまいます。
実は、この小さな違いが、次回案内の獲得率や契約率を大きく左右しているのです。
「条件が固まる」とは、理由まで説明できること
営業では、
「条件は固まりましたか?」
という会話もよくあります。
しかし、ここでも勘違いが起こります。
例えば、お客様が
「南向きがいいです。」
と言ったとします。
新人営業マンは、
「南向き希望ですね。分かりました。」
とメモを取ります。
これだけで条件が固まったと思ってしまうのです。
ですが、本当にこれで物件条件が固まったのでしょうか。
そもそも、なぜ南向きなのでしょうか。
- 日当たりが気になるからでしょうか。
- 寒さが苦手だからでしょうか。
- 資産価値でしょうか。
- 単に何となくそう思っているだけでしょうか。
理由が分からなければ、その条件はまだ固まっていません。
「駅徒歩10分以内がいいです。」
これも同じです。
- なぜ10分以内なのでしょう。
- 毎日の通勤が大変だからでしょうか。
- 子どもの送り迎えでしょうか。
- 雨の日を考えているのでしょうか。
- 奥様が車を運転しないからでしょうか。
営業マンが理由を理解できて初めて、
その条件を正しく優先順位に反映できます。
逆に、理由まで分かっていれば、提案の質は大きく変わります。

営業マンが知るべきは条件ではありません。
条件の背景にある生活、条件の裏にある理由です。
さらに重要なのは、
お客様が希望する条件を、営業マン自身が第三者へ説明できる状態になっていることです。
上司から、
「なぜこの物件を提案したの?」
「なぜこのエリアを勧めたの?」
「なぜマンションじゃないといけないの?」
と聞かれた時、その理由まで説明できるでしょうか。
説明できないのであれば、
実は営業マン自身も、お客様を十分理解できていません。
だから提案に自信が持てず、
物件をたくさん見せるしかなくなります。
反対に、理由まで理解できている営業マンは、
「このお客様なら、この物件が一番可能性が高い。」
という仮説を持って提案できます。
不動産仲介における営業力とは、
お客様の『なぜ』を理解している深さ、とも言えます。
「選ばない理由」が分かると、本当の条件が見えてくる
営業マンは、お客様に条件を聞くことには慣れています。
「ご予算はいくらですか?」
「ご希望のエリアはありますか?」
「マンションと戸建て、どちらをご希望ですか?」
ここまでは、多くの営業マンが質問できます。
しかし、意外と聞けていない質問があります。
それが、
「なぜ、それを選ばないのですか?」
という質問です。
例えば、お客様が
「松戸市は考えていません。」
と言ったとします。
その時、多くの営業マンは、
「分かりました。では松戸市以外で探します。」
で終わってしまいます。
ですが、本当に知るべきなのは、その先です。
なぜ松戸市ではないのでしょうか?
- 通勤時間でしょうか。
- 治安でしょうか。
- 親族との距離でしょうか。
- 学校区でしょうか。
- 過去に住んで嫌な経験があったのでしょうか。
- 価格帯でしょうか。
理由は人によってまったく違います。
実は、
「選ばない理由」
には、その人の価値観が最も表れます。
例えば、
「駅から遠い物件は嫌です。」
という人でも、理由が
「夜道が暗くなるし、小さな子どもがいるから。」
なのか、
「毎日の通勤時間を短くしたいから。」
なのかで、提案すべき物件は大きく変わります。

同じ条件でも、理由が違えば最適解は変わるのです。
さらに、「選ばない理由」を聞くことで、条件がブレにくくなります。
営業をしていると、
「やっぱりマンションも見たいです。」
「やっぱりこのエリアも気になります。」
という場面がよくあります。
一見、お客様の気持ちが変わったように見えます。
しかし、その多くは最初に理由を整理できていなかっただけです。
理由が曖昧なまま条件だけを決めても、あとから迷いが生まれます。
一方で、
「なぜ選ばないのか」
まで整理されていれば、判断基準が明確になります。
だから迷いにくくなるのです。
「Why」を聞くことは、お客様のためでもある
「理由を聞きすぎると嫌がられませんか?」
と心配する人がいます。
確かに、聞き方を間違えれば尋問のようになってしまいます。
しかし、それは質問が悪いのではありません。
目的が伝わっていないのです。
営業マンが理由を聞くのは、
契約を取りたいからではありません。
自分の売上を上げたいからでもありません。
お客様にとって、本当に合う物件を見つけるためです。
この目的がブレなければ、質問は自然なものになります。
例えば、
「駅近をご希望とのことですが、その理由を教えていただけますか?」
という質問は、お客様を困らせるためではありません。
より良い提案をするためです。

お客様もその意図を理解できれば、安心して話してくださいます。
実際、多くのお客様は、自分でも理由を言語化できていません。
「なんとなく駅近がいい。」
「なんとなく戸建てがいい。」
「なんとなく新築がいい。」
そんな状態で物件探しを始めています。
だからこそ営業マンが質問を重ねることで、
「私はこういう理由で、その条件を大切にしていたんだ。」
と、お客様自身も初めて気付くことがあります。
「決める」「固める」とは、お客様が自信を持って前に進める状態をつくること
ここまで、
「決める」
「固める」
という言葉を整理してきました。
営業現場では当たり前のように使われていますが、その意味は決して単純ではありません。
予定が決まるとは、単に日程が決まることではありません。
お客様が、
「いつ」
「何を」
「どのように」
「なぜ行うのか」
まで理解し、行動できる状態になっていることです。
条件が固まるとは、希望条件を書き出すことではありません。
その条件を選ぶ理由も、選ばない理由も整理され、自分でも説明できる状態になっていることです。
ここまでできて初めて、「決まった」「固まった」と言えるのです。
営業では、
「約束が守られない。」
「条件が変わった。」
という出来事が起こるたびに、お客様のせいにしたくなります。
ですが、本当に見るべきなのは、営業マン自身が、お客様の行動を設計できていたかどうかです。
・なぜ、その行動が必要なのか。
・なぜ、その条件なのか。
・なぜ、その優先順位なのか。
この「Why」が曖昧なままでは、お客様は迷い続けます。
反対に、「Why」が整理されると、お客様は自分の判断に自信を持てるようになります。
営業マンが背中を押しているのではありません。
お客様自身が、自分で前へ進める状態をつくっているのです。
この習慣こそが、お客様から信頼される営業マンへの第一歩になるのです。

