「購入意思を固めてから次へ進む」は、本当に正しいのか?【不動産売買仲介営業】
前回投稿した記事で、不動産売買仲介営業において、
「購入意思を確認する」
「購入意思を固める」
という考え方を、解説しました。
お客様が、
- なぜ住まいを変えたいのか。
- なぜ購入なのか。
- なぜ今なのか。
- 購入しなかったらどうなるのか。
- 条件が整えば本当に購入へ進むのか。
こうしたことを整理し、
「自分たちは家を購入する。その中で、自分たちに合う物件を選ぶ。」
という状態をつくる。
これが、購入意思を固めることという内容です。
そして、不動産売買仲介営業でお客様を購入へ導くには、
1:購入意思を固める。
↓
2:予算・時期・条件を固める。
↓
3:その条件の中から、最良の物件を選ぶ。
この順番が重要だと、解説しました。
ただし、この考え方には、一つ大きな注意点があります。
この順番を、そのまま
「接客で必ず実行すべき順番と決めつけてはいけない」
ということです。
購入意思が完全に固まるまで、予算の話をしてはいけない。
購入意思が完全に固まるまで、条件を聞いてはいけない。
購入意思が完全に固まるまで、物件を見せてはいけない。
決して、そういう意味ではないからです。

むしろ、この考え方を正しく理解しないまま使うと、
購入意思を固めることに一生懸命になるあまり、お客様の気持ちを置き去りにする営業マン
が生まれてしまう可能性があります。
今回は、前回の記事からさらに一歩進んだ、考え方を解説していきます。
【あわせて読んでほしい記事】
今回の記事は、「購入意思とは何か」を解説した
〜『家が欲しい』だけでは買わない理由。購入意思を固める5つのポイント〜
の実践・応用編にあたる内容です。
「購入意思を確認する」「購入意思を固める」という言葉の意味については、前の記事で詳しく解説しています。まだ読んでいない方は、先にこちらを読んでいただくと、今回の内容がより理解しやすくなります。
お客様の気持ちは、そんなに綺麗な順番では動かない
例えば、初めて来店したお客様が、
「まだ本当に買うかどうかまでは決めていないんです。」
と言っていたとします。
「最近、家賃を払い続けるのももったいない気がして。」
「子どもも大きくなってきたので、家を買うのもありかなと思って。」
その程度の温度感です。
当然、この段階では購入意思はまだ固まってるとは言えません。
では、このお客様に、
「なぜ購入なのですか?」
「賃貸への住み替えではダメなのですか?」
「なぜ今なのですか?」
「購入しなかったら、何か困ることはありますか?」
「条件が合えば本当に購入しますか?」
と、ひたすら質問を続けたらどうでしょう。
もちろん、この質問自体が悪いわけではありません。
でも、お客様からすれば、
「いや、まだそこまで考えていないんだけど……。」
となるかもしれません。
さて、なぜ、このお客様は質問に答えられないのでしょうか?
購入意思がないからでしょうか?
もちろん、その可能性もありますが、絶対にそうとは言い切れません。
まだ判断するための材料を持っていないから、答えられないだけかもしれないのです。
「買える」と分かってから、初めて購入を考えられる人もいる
例えば、そのお客様と資金計画をしてみたとします。
今の家賃は月10万円。
住宅ローンを組んだ場合も、無理のない予算で考えれば月々の支払いは10万円程度で大きく変わらない。
諸費用も含めて説明を受け、自分たちの年収なら、このくらいまでなら現実的に購入できることが分かった。
すると、
「ちゃんと計算したら大丈夫そうだな。」
という話になるかもしれません。
さらにエリアを整理してみる。
通勤時間。
子どもの学区。
実家との距離。
周辺環境。
それらを考えていく中で、
「この辺なら、生活圏もあまり変わらなくて済むね。」
となるかもしれません。
さらに物件条件を整理してみる。
「4LDKじゃなくても、3LDKで十分かもしれない。」
「駅徒歩10分以内で考えていたけど、15分まで広げればこんなに選択肢が増えるんだ。」
と分かってくる。
そして実際に物件を見る。
今より広いリビング。
子ども部屋。収納量も増える。
敷地内に駐車場もあって、新生活のイメージが膨らむ。
そこで初めて、
「こういう家で暮らせるなら、いいよね〜。」
と夫婦で話し始める。
来店した時には、
「買うかどうかも分からない。」
と言っていたお客様が、
予算を知り、エリアを考え、条件を整理し、
実際の物件を見るというプロセスを通して、
「家を購入しよう。」「家を購入したい。」
という気持ちまで進む。
こういうことは、実際の営業現場では十分に起こります。
つまり、購入意思は、必ずしも最初のヒアリングだけで固まるとは限らないのです。

「営業の論理」と「お客様の心理」は分けて考える
私は、
購入意思を固める。
↓
予算・時期・条件を固める。
↓
その中から最良の物件を選ぶ。
という順番自体は、最も重要だと考えています。
なぜなら、
そもそも購入するのかどうかも分からない状態で、
細かな物件条件ばかり聞いても、本当の意味で条件は固まらないからです。
しかし!ここで、区別しなければならないものがあります。
それが、
「営業を組み立てる上での論理的な順序」と「お客様の気持ちが変化する順序」は一致しない場合もある
ということです。
不動産売買営業を組み立てる上では、
明確な購入意思があり、
→ その上で予算や時期があり、
→ その中で物件条件を決めて、
→ その条件に合う物件を選ぶ。
この構造で考えた方が、間違いなく整理しやすいです。
しかし、お客様の心理は、そんなに綺麗な一直線では進まないケースもあります。
予算が分かったことで、購入意思が強くなることがあります。
購入意思が強くなったことで、条件を真剣に考え始めることがあります。
条件を整理したことで、
「自分たちは何のために家が欲しいのか。」
が改めて見えてくることもあります。
物件を見たことで、初めて購入後の生活を想像できる人もいます。
逆に、
実際に物件を見たことで、
「ちょっと購入するのは違うかも。」
と気付くこともあるかもしれません。
いずれにせよ、お客様の意思決定が一歩進んだことになります。
つまり、営業には整理すべき論理的な順序がある。
しかし、お客様の意思決定は、その順番を行ったり来たりしながら進む。
この二つを分けて考える必要があります。

購入意思を固める方法は、ヒアリングだけではない
ここまで考えると、もう一つ重要なことが見えてきます。
購入意思を固めるために必要なのは、
必ずしもヒアリングだけではありません。
例えば、
「自分たちが本当に家が買えるのか分からない。」
「今の自分が住宅ローンを組めるのだろうか。」
というお客様がいたとします。
この人に、
「なぜ購入したいのですか?」
と何度聞いても、購入意思はそれほど高まらないかもしれません。
なぜなら、
この人の意思決定を止めているのは、購入理由の弱さではなく、
「自分が購入できるのか分からない」
「ローンに通るのか分からない」
という不確実性だからです。
ならば必要なのは、資金計画かもしれません。
住宅ローンや、金融機関ごとの審査の見方ついて説明し、
年収等から算出した借入可能額や資金計画を立てる。
お客様の状況に応じて、最適な金融機関を提案する。
それによって、
「これなら自分たちにも十分に買える可能性がある。」
と分かれば、購入という選択が現実になる可能性が高まります。
また、別のお客様は、
「この予算で、どんな家が買えるのか分からない。」
と思っているかもしれません。
この人には、いくら質問をしても分からないことがあります。
ひょっとしたら、実際の物件を見た方が早いかもしれません。
「4,000万円の中古なら、このエリアではこのくらい。」
「少し駅から離れれば、同じ価格でもここまで広くなるし、築年数も新しくなる。」
実物を見ることで、予算と条件の関係が初めて理解できる可能性もあります。
あるいは、夫婦で希望条件が全く違うケースもよくあります。
夫は、通勤距離と築年数を重視。
妻は、実家との距離と子育て環境を重視。
この場合は、購入意思を聞き続けるよりも、
二人の条件を整理した方がいいかもしれません。
・何を優先するのか?
・なぜそれを優先するのか?
・お互い譲れる部分はどこなのか?
それを話しているうちに、
「そもそも自分たちは、何のために家を買おうとしているんだっけ。」
という購入の目的まで整理されることがあります。
つまり、
予算を決めることも、条件を整理することも、物件を見ることも、購入意思を固めるプロセスになり得るのです。

営業マンが見るべきなのは「購入意思が弱い」という結果ではない
お客様の購入意思が弱いと感じた時、
「もっと購入意思を固めなければ!」
「まず購入意思を固めて物件に向き合ってもらわないと!」
という思考になると、上手くいきません。
購入意思が弱いと感じた時に、
なぜ、今このお客様の意思決定が進んでいないのか?
という視点を持つこと、これが大事です。
例えば、10年前に購入したマンションに住んでいて、今の家から住み替えたい理由はある。
でも、
「今の年収やローン残債、市場の高騰などから、住み替えたい理想的な物件が購入できるか分からない。」
というお客様がいたならば、現住居の売却査定額も加味した資金計画が必要かもしれません。
欲しい家のイメージはある。購入したい。
予算も分かった。希望の条件もある。
でも、
「価格高騰してると言われている今、買うべきなのかが定まっていない。」
なら、購入時期を遅らせることのメリット・デメリットについて整理する必要があります。
つまり、営業マンが考えるべき問いは、
「どうやって購入意思を固めようか?」
ではありません。
このお客様は、何が分かっていないから、次の意思決定へ進めないのか。
そして、
次に何が分かれば、このお客様の意思決定は一歩進むのか。
この2つの視点を持つことです。

順番を守っても嫌われたら意味がない
営業現場に出た際、上司から
「購入意思を確認して。購入意思を固めないとダメだ。」
と言われたとします。
すると、新人の真面目な営業マンほど、
「最初に購入意思を固めなければいけない。」
と考えます。
その心は素晴らしい一方で
まだ購入意思が20%くらいのお客様に対して、いきなり100%まで固めようとする人がいます。
「なぜ購入なんですか?賃貸ではダメなんですか?」
「本当に理想的な物件があったら買いますか?」
と質問をしても、明確な答えが返ってこない場合がほとんどです。
もしかするとこのお客様は、購入したくないのではなく、
まだ判断材料が足りないだけかもしれません。
買える金額も知らない。
住宅ローンも分からない。
どんな物件があるかも知らない。
購入すると生活がどう変わるかも分からない。
そんな状態の人に、答えを求め続けても、この人の中にもまだ答えがないのです。
それなのに、営業マンだけが質問攻めをして先へ進もうとすると、お客様との間に温度差が生まれ、最終的に、
「なんだか買わせようとしてくるな。」
という印象を与えてしまうケースも散見されます。
これは、
購入意思を確認することが悪いのではありません。
購入意思を固めようとすることが悪いのでもありません。
お客様の現在地を無視して、営業マンが決めた順番を押し付けていることが問題なのです。

新人営業マンはここを間違えてはいけません。
お客様との歩調は常に合わせることが大前提です。
「順番を守る」のではなく「現在地を見る」
目の前のお客様が、
・今どこにいるのか。
・何までは理解できているのか。
・何がまだ分からないのか。
・何に不安を感じているのか。
・どこで意思決定が止まっているのか。
それを見ながら、次に必要なことを選びます。
・質問した方がいいのか。
・資金計画をした方がいいのか。
・条件を整理した方がいいのか。
・市場を説明した方がいいのか。
・実際に物件を見るのがいいのか。
・一度家族で話し合ってもらった方がいいのか。
正解は、お客様によって異なります。
だから、
「購入意思が固まっていないから、購入意思を確認するヒアリング!」
と単に機械的に考えてはいけません。
大切なのは、
そのお客様の意思決定を止めているものが何なのか?を見つけること。
そして、それを一つずつ、お客様と共に解消していくことです。

購入意思を確認しながら進む。進みながら購入意思を固める
ここまでお話ししてきたことを整理すると、不動産売買仲介営業において、
「購入意思を確認すること」が重要であることは変わりません。
「購入意思を固めること」が重要であることも変わりません。
そして、
・購入意思
・予算
・時期
・条件
・物件
これらを整理していく必要があることも変わりません。
ただし!
これらを、ただ順番通りに進めるチェックリストのように考えてはいけません。
実際のお客様の意思決定に関する心理は、もっと行ったり来たりします。
購入意思
↕︎
予算
↕︎
時期
↕︎
条件
↕︎
物件
この5つが相互に影響します。

予算が分かったから、購入意思が強くなる。
↔︎ 購入意思が強くなったから、条件を真剣に考える。
↔︎ 条件を整理したから、本当に欲しい暮らしが見える。
↔︎ 物件を見たから、条件が変わる。
↔︎ 物件を見たことで、「やっぱり家が欲しい」と初めて実感する。
このような気持ちが往来するのが人間です。
だから私は、実際の接客では、
「購入意思を固めてから、次へ進む」
だけではなく
「購入意思を確認しながら進み、進みながら購入意思を固めていく。」
という捉え方も、持っておく必要があると思っています。
最後に
営業マンが把握すべきなのは、
目の前のお客様の現在地です。
営業マンにとっては、何度も経験してきた住宅購入の現場かもしれません。
でも、お客様にとっては、
初めて住宅ローンを考え、
初めて自分たちの予算を知り、
初めて物件条件を考え、
初めて何千万円という家を見て、
初めて購入するかどうかを決める経験かもしれません。
最初から、すべての答えを持っている人はいません。
だから営業マンは、答えを急がせるのではなく、
答えを出すために、今その人に何が足りないのかを考えること。
予算やローンが明確になっていないのか。
物件条件が相場と乖離しているのか。
家族との話し合いの場が足りていないのか。
そして、その判断材料を一つずつ揃えていくこと。
私は、それもまた、
「購入意思を固める」という営業の大切な仕事の一部
だと考えています。
購入意思を確認しながら進み、進みながら購入意思を固める。
そのために、
今、このお客様には何が必要なのか?
そこを考え続けることが、不動産売買仲介営業に求められる仕事なのだと思います。
