皆さんがこれから経験する「営業同行」は、単なる“先輩の後ろをついて行く時間”ではありません。
お客様対応の現場に立ち会うこの機会は、営業という仕事の本質や、人との接し方、言葉の選び方など、机上では学べない“生きた知識”に触れる貴重な時間です。
特に中途入社の皆さんは、すでに社会人としての基礎力を持ちながらも、今の職場での営業スタイルや文化にまだ馴染みがない状態かもしれません。その状況だからこそ、ただ“見る”だけではなく、どこに視点を置き、どう解釈し、自分の営業にどう活かすかが成長の鍵になります。
本記事では、営業同行の意味と、同行から何をどう学び取るべきかを、わかりやすく丁寧に解説していきます。
「ただの見学」で終わらせず、自分の成長の糧にするためのヒントとして、ぜひ参考にしてください。
営業同行ってなに?ただ「見る」だけじゃない
営業職として入社すると、早い段階で経験するのが「営業同行」です。
これは、先輩社員と共にお客様のもとへ訪問し、実際の営業の現場を見学する機会のことを指します。業界によっては「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」とも呼ばれるこの取り組みは、一見すると「先輩の仕事ぶりを横で見ているだけ」と感じるかもしれません。
しかし、営業同行の本質は「ただ見ること」ではありません。
同行は、営業という仕事の本質に触れ、自分なりの営業スタイルを作る“入口”です。
お客様とのコミュニケーションの取り方、話す順番、間の取り方、空気の読み方、立ち振る舞い、表情の変化――そうした細かな「言語になっていない技術」を、実際の現場で体感し、自分の引き出しとして蓄積していくのが、同行の真の目的です。
また、中途入社の方は、すでに社会人経験があり、別の業界や職種で多くのことを学んできたと思います。その経験値は貴重な資産ですが、一方で「この業界では、どう立ち回るべきか」「この会社の営業スタイルはどう違うのか」といった戸惑いもあるはずです。営業同行は、まさにその“ギャップ”を埋め、現場感覚を手に入れる絶好の機会なのです。
重要なのは、「何を見るか」だけでなく、「どう見るか」。
つまり、同行は受け身でただ傍観する場ではなく、自分自身の成長の材料を見つけにいく「観察と吸収のトレーニングの場」なのです。
【出発点】尊敬の視点を持とう:先輩は「会社の顔」
営業同行において、まず最初に大切にしていただきたい視点があります。
それは、「先輩はお客様の前に立つ、会社の代表者である」という認識を持つことです。
自分よりも一足先に現場で経験を積み重ね、成果を上げてきた先輩は、単なる“上司”や“経験者”ではありません。お客様から見れば、その人が「会社そのもの」に見える存在です。たとえその場に社長がいなくとも、現場の営業担当者の言動や振る舞いが、会社全体の印象を決定づける。それほど、営業という仕事には「組織を背負う責任」が伴います。
このような立場で日々お客様と向き合っている先輩の姿には、必ず学ぶべき所作や言葉の選び方、タイミングの見極め方、空気の読み取り方があります。
一見、自然に見える所作であっても、それは経験と工夫の積み重ねによって洗練された「技術」なのです。
同行中、まず意識すべきことは、「すごいな」と思える部分を一つでも多く見つけようとする姿勢です。
細かい一言や、目線の動かし方、資料の出し方ひとつに至るまで、先輩が何を意図してその行動をとっているのかに想像力を働かせてください。
同行を“見学”で終わらせるか、“学びの時間”に変えるかは、この「尊敬と観察のバランス」にかかっています。自分より先に現場に立ち、会社の顔として顧客と向き合っている先輩の仕事には、必ず“盗む価値のあるもの”が詰まっています。
まずはそこに気づく姿勢を持つこと。それが、営業同行を通じて最も初歩的で、かつ本質的な学びの第一歩となるのです。
【観察のコツ】目的は“評価”じゃなく“翻訳”
営業同行において、先輩のやり方を見ながら「もっとこうすればいいのでは?」「自分ならこうやらないかも」と感じることがあるかもしれません。
ですが、それは決して先輩に対する“批判”ではありません。
むしろ、それは自分自身への「翻訳作業」としてとらえて良い視点です。
たとえば、誰かの作った料理を食べて「美味しいけど少し味が濃いな」と感じたとき、その人の料理の価値を否定することはないでしょう。それよりも、「自分ならもうちょっと薄めに作るな」と、自分の好みに合わせて料理を作るときは塩を控えめにする――それと同じ考え方です。
営業もまったく同じで、先輩の言葉や動きの“意図”を読み取り、それを自分なりの表現に置き換える力が大切です。
大事なのは、「自分ならこのタイミングで何て言うか?」「この雰囲気に、自分ならどう入っていくか?」と問いを持ちながら観察すること。
この“翻訳思考”ができると、ただ真似するよりもはるかに深く、その営業の構造を理解できるようになります。単なる受け身の「見学」ではなく、能動的な「応用の練習」として営業同行を捉えることが、成長スピードを大きく左右します。
つまり、営業同行の価値は、「正解を探すこと」ではなく、“自分の営業”に転換できる引き出しを増やすことにあります。
【リカバリーの技術】うまくいかない場面こそ宝物
営業の現場では、すべてが順調に進むわけではありません。
むしろ、成約につながるケースは全体の3〜4割程度であり、もしかすると7割は思うようにいかないことのほうが多いといっても過言ではありません。
たとえば、お客様から「ちょっと考えます」と言われた場面。
これは決して珍しいことではなく、営業においては日常的に発生するやり取りのひとつです。
このとき、売れている営業マンは「はい、わかりました」と単に引き下がるのではなく、その言葉の裏にある“本音”や“迷い”を見抜きながら、丁寧に対応を組み立てていきます。
「無理に押さず、でも手放さない」
この絶妙な距離感を保ちつつ、信頼を失わずに次のアプローチにつなげていくリカバリー力は、現場でしか習得できない実践的な技術です。
営業同行では、たとえば、お客様の表情がふと曇ったタイミングや、言葉を飲み込んだ瞬間、あるいは話題を変えたときの空気感の変化など――そうした微細な動きをどう捉え、どう切り返したかに注目してください。このような瞬間こそが最大の学びのチャンスです。
さらに、上手くリカバリーできなかった場面は、より貴重な教材になります。
それは「何が足りなかったのか」「どうすればよかったのか」と考えるきっかけとなり、自分の営業スタイルに活かせるヒントとなるからです。
営業は“完璧”を求める仕事ではありません。
うまくいかない状況にどう対応し、どう切り替え、どう前を向くか――そこにこそ、営業としての本質的な力が問われます。
だからこそ、営業同行では成功の場面だけでなく、“うまくいかなかった場面”にこそ、集中して観察することが、自分の成長につながるのです。
まとめ:営業同行を「自分の学び」に変えるために
営業同行は、ただ現場を“見て終わる”ためのものではありません。
そこには、先輩の技術や姿勢を間近で観察し、言葉にできないノウハウを肌で感じるチャンスが詰まっています。
もちろん、営業現場には“完璧”は存在しません。だからこそ、うまくいかなかった場面こそが、プロの対応力や人間力が試される瞬間であり、実際に営業に出る前にそれを目の当たりにできること自体が、大きな学びになります。
営業同行の時間を「なんとなく見ていた」で終わらせるのか、
「自分の中に吸収し、次に活かす学びの時間」にできるのか――。
その違いが、数ヶ月後、1年後の営業力の差につながっていきます。
ぜひこれからの同行の機会を、自分の営業スタイルを育てる「実地トレーニング」として、積極的に活用してください。