「教えても響かない」の正体―スマホ時代の“学べない脳”にどう向き合うか | 株式会社Re-Branding

Blog & Info

「教えても響かない」の正体―スマホ時代の“学べない脳”にどう向き合うか

#教育#研修#能力開発#自己啓発

スマートフォンが当たり前になった現代、社員教育の現場では「何度教えても変わらない」「すぐに忘れてしまう」という悩みが増えています。

そして、「彼からはやる気を感じない…」という言葉を最後に、教育の限界を感じてしまうケースが散見されます。

果たして、これは本当に本人の“やる気の問題”なのでしょうか?

実は、脳と情報環境の変化により、「学びが届かない時代」に突入している可能性があります。

この記事では、教育効果が出ない本当の理由を明らかにし、教育者としての次の一歩を探ります。

目次

スマホと共に生きる社員たちの現実

気づけば、1日5時間以上スマホを使っている私たち

「1日、どのくらいスマートフォンを使っていますか?」

この問いに対して、「2〜3時間くらいでしょうか」と答える人も多いかもしれません。
しかし、実際にスマートフォンのスクリーンタイムを確認してみると、1日5時間以上使っているというケースは決して珍しくありません。

この傾向は個人差というよりも、現代の働く世代全体に共通する「当たり前の行動パターン」と言えます。

実際の調査でも、20〜30代の会社員の多くが1日5時間以上スマートフォンを使用していることが報告されています。

通勤中、昼休み、帰宅後、就寝前・・・

こうした日常の“すきま時間”は、ほとんど無意識にスマートフォンに使われている状態です。睡眠や勤務時間を除いた「自由に使える時間」のかなりの部分が、スマホの画面に費やされているのが現実です。

SNSや動画が「情報の入り口」になっている

スマートフォンの使用目的の多くは、SNSや動画視聴、ニュースアプリの利用です。

たとえば、20〜30代ではYouTubeやInstagramの利用率が8割を超えるというデータもあります。もはやSNSを日常的に使うことは特別な行動ではなく、完全に「生活の一部」となっているといえるでしょう。

さらに、2024年の調査によれば、人が1日に接触するすべてのメディア(テレビ、新聞、ラジオ、Webなど)の中で、スマートフォンが占める割合は約37%

これは他のメディアを大きく上回る数字であり、スマホが現代人にとっての“情報の主戦場”になっていることを示しています。

つまり、私たちが日々得ている情報の大半は、スマートフォンを通して届けられているのです。

情報は「取りに行く」ものではなく、「自然と流れてくる」ものに

では、毎日のように触れているその情報は本当に「自分の意思で選んでいるもの」でしょうか?

SNSのフィードや動画アプリのおすすめ機能は、ユーザーの行動履歴や興味に合わせて、自動的に情報を選んで表示しています。つまり、「自分で選んでいる」と思っている情報も、実は「自分に最適化されて流れてきたもの」に過ぎない可能性があります。

また、流れてくる情報はほとんどが短く、視覚的にわかりやすく、即座に理解できる内容に偏っています。通知、リール、ショート動画、バズった投稿など、短時間で脳が報酬を得られるコンテンツが次々と流れてきます。

こうしたコンテンツに日常的に触れていると、脳は常に「反応」することに慣れてしまい、気づかぬうちに受け身な情報接触のスタイルが習慣化していきます。

「考える前に反応する」脳になっていないか?

このような環境下では、私たちは“情報を得ている”というより、“情報に反応させられている”状態にあるのかもしれません。

たとえば、

このような体験に心当たりがあるとしたら、それはすでに脳が「深く考えること」よりも「即時に反応すること」に最適化されてきている兆候かもしれません。

スマホ中心の生活は「普通」かもしれない。でも——

スマホを使うこと、SNSを見ること、通知に反応すること。
これらはもはや現代社会において“普通”の行動になっています。

しかし、その「普通」のなかで、私たちの思考スタイルや集中力、そして“学ぶ力”までもが変わり始めているという事実には、一度向き合っておく必要があるのではないでしょうか。

次の章では、スマートフォンやSNSが私たちの脳に与えている影響について、脳科学の視点から詳しく解説していきます。

スマホがあなたの脳に起こしている変化とは?

――「即時報酬」に支配される脳のメカニズム

脳は「すぐに手に入るごほうび」が大好き

人間の脳は、長期的な報酬よりも、目の前の“すぐに得られるごほうび”に強く反応するように設計されています。これは、生存が第一の目的だった原始時代から続く、私たちの進化の名残です。

たとえば、木の実を見つけた瞬間に手を伸ばす、目の前に現れた危険な生き物からすぐ逃げる——

こうした“即時的な反応”が、生き延びるためには必要だった時代が長く続いてきました。そのため、脳は「待つ」より「すぐ得られるもの」に快感を覚える性質を今も残しているのです。

この性質が、現代のスマートフォンと非常に相性が良いのは想像に難くありません。

SNSの通知、動画アプリのオススメ表示、リールやショート動画の高速切り替え…。これらは、すべて脳が“ごほうび”として感じる刺激を、すぐに・繰り返し得られるように設計されているのです。

ドーパミンと「快感ループ」の仕組み

その“ごほうび”を感じたとき、脳内ではドーパミンという神経伝達物質が分泌されます。

ドーパミンは、報酬・快感・やる気などをコントロールする物質で、SNSの「いいね」や通知、バズるショート動画の再生といった瞬間に、私たちの脳内で活発に働きます。

ドーパミンの分泌は、

「刺激を受ける → 快感を得る → また同じことをしたくなる」

というループをつくります。これが何度も繰り返されると、脳は“その行動をもっとやりたがるように”習慣化していくのです。

つまり、

という現象は、本人の意志の弱さとは関係なく、生まれながらにして備わった脳の構造によって仕組まれた“快感ループ”にハマっている状態とも言えます。

そして問題なのは、この快感ループが強化されると、長期的な努力や報酬には関心が向かなくなっていくという点です。3分で終わる動画には集中できるのに、30分の講義動画は頭に入らない…。

この差は、まさに“報酬までの時間”によって脳の反応が違っていることを示しています。

スマホ使用が「思考力」を奪うという研究結果

この脳の性質が、どのように“学び”に影響を及ぼしているか。具体的な研究結果が、東北大学・東京大学の研究チームから発表されています。

『スマホはどこまで脳を壊すか (朝日新書) 』を出版し、東北大学・榊浩平氏の研究によると、
「スマホを1日3時間以上使っている中高生は、いくら勉強しても成績が伸びにくい」
という結果が出ています。

この表は榊教授が収集した「勉強・睡眠時間と学力の関係」を表したグラフです。

ポイントは、「勉強していないから成績が悪い」のではなく、スマホの過剰使用によって、脳が学習に向かない状態に変化している可能性があるということ。

学習に必要なのは、「情報を保持する力(ワーキングメモリ)」や「深く考える力(前頭前野)」です。しかし、スマホのような断片的で刺激の強い情報を大量に浴びていると、これらの機能が“使われにくくなる”状態になるのです。

また、東京大学の酒井教授は、こうした現象を「思考の外部化」と表現しています。

検索すれば何でも出てくる、AIに聞けば一発で答えがわかる——

こうした環境に慣れると、自分の中で情報を組み立てたり、考えたりするプロセスを飛ばすようになる

結果として、

情報の受け取り方が「脳の性能」に影響している

ここで改めて確認しておきたいのは、情報そのものが悪いのではないということです。
問題は、「どうやってその情報と付き合っているか」。

現代の情報環境では、

といった能動的なプロセスを経ることが、どんどん減っています。

その代わりに、

といった受動的な接触が増えていく。

これが続くと、脳の「処理」「整理」「記憶」といった基本的な働きも、鍛えられにくくなっていくのです。

今の自分の“脳の状態”に気づくことが、学びの第一歩

それは単なる性格や習慣の問題ではなく、あなたの脳が“即時報酬”に最適化された結果かもしれません。

スマホが悪いのではありません。SNSや動画を楽しむことも悪いわけではありません。

でも、自分の脳が今、どんな状態にあるのかに気づかずに学ぼうとしても、なかなかうまくいかない。

まず必要なのは、
「今の自分は、どんな情報の取り方をしているのか?」
「“すぐ得られるもの”ばかり追っていないか?」
という視点を持つこと。

次章では、こうした“変化した脳の状態”を前提にしたとき、これまでの社員教育の方法にどんな限界があるのか、そしてどう変えていく必要があるのかを考えていきます。

学びが届かないのは、教え方のせいじゃない。受け手の“脳”が変わったのだ

「教えてるのに、変わらない」その原因は、学ぶ側の“脳の状態”にあるかもしれない

これらは、教育や育成の現場でよく聞かれる悩みです。

多くの場合、こうした反応は「本人のやる気の問題」や「意識の低さ」として処理されがちですが、それだけでは説明がつかない現象が増えてきています。

なぜなら、学びとは「脳の使い方」がすべての土台になるからです。

[集中する・理解する・考える・記憶する]

これらはすべて、脳の“状態”が健全で、学ぶ準備ができていることが前提になります。

そして今、その前提が崩れつつあるのです。

教育の成果が出にくくなっている背景には、教え方の問題ではなく、本人のやる気の問題でもなく、受け手の「脳の使われ方そのもの」が変わってしまっているという深刻なズレがあるかもしれません。

外部刺激に最適化された脳は、「地味な集中」に耐えられない

前章までで述べたように、現代人の脳はSNSや動画コンテンツの影響で、短くて刺激の強い情報に反応する習慣が形成されています。

通知音に反応し、短時間でオチのつくコンテンツに慣れ、アルゴリズムが用意してくれる“自分好み”の情報だけを浴びる毎日。

こうした環境に長く晒された脳は、じっくり考える、長時間集中する、抽象的な内容に耐えるといった“学びに必要な脳の力”を使わなくなっていきます。

問題なのは、こうした環境変化が“習慣”を超えて、脳の情報処理スタイルそのものを変えてしまっているという点です。

その結果、

というような現象が、まるで“脳の仕様”であるかのように起きてきます。

つまり、「集中できない」ことは、やる気の問題ではなく、脳が“地味な情報”に耐えられなくなっている構造的な変化とも言えるのです。

教育モデルが「昔の脳」を前提に設計されている

多くの企業研修や社内教育のスタイルは、今も以下のような形式に偏っています:

これらはかつて、“受け手の集中力が保たれること”を前提に設計されてきたものです。

ところが今は、その前提となる「集中できる脳」が、社会環境によって変わってきている。

すぐに反応できる刺激に慣れ、静的で反復の少ない学習環境に適応しづらくなった現代の脳に対して、旧来の研修モデルは、いわば「OSが合っていないソフトウェア」をインストールしようとしている状態とも言えます。

これでは、せっかく質の高い情報を用意しても、そもそも“受け止める準備”が整っていないため、効果が出ないのです。

現場で実際に起きている異変たち

こうした“教育が届かない現象”は、研修やOJTの現場でも具体的に表れています。

たとえば——

これらの現象は、受け手が「やる気がない」わけでも、「反抗的」なわけでもありません。

単純に、学習に必要な“脳のリソース”が準備できていないから起きている可能性があるのです。

特に新人や若手社員は、

  • 学び方を知らない
  • 注意を長く保つ経験が少ない
  • 日常的なスマホ脳で疲労して“脳のメモリ容量”に余裕がない

という状態にあり、従来型の教育コンテンツではまったく機能しないケースも増えています。

「伝えたはずなのに変わらない」の裏には、 “受け手の準備が整っていない状態”で一方的に情報を流しているだけという根本的な問題が潜んでいます。

これからの教育は「脳の状態把握」から設計し直す必要がある

これまでの社員教育は、「何を教えるか」「どう教えるか」に多くのエネルギーが割かれてきました。
もちろん、それ自体が無意味なわけではありません。

しかし今、最も見直すべきなのは、
「受け手が今、学べる状態にあるのか?」という前提条件です。

どれだけ正しいことを伝えても、
どれだけ構造化された内容を用意しても、
それを受け取れるだけの“脳の環境”が整っていなければ、教育は届きません。

つまり、学びの再設計は「コンテンツ」から始まるのではなく、“脳の状態を整えるところから始めなければならない”時代に入ったのです。

教育担当者・指導者側が持っておくべき視点と姿勢

――「教える前提」そのものを問い直すフェーズに入った

「教え方」だけでは限界がある。鍵は“相手の状態”に目を向けること

多くの教育・育成現場では、「どう教えるか」「どう伝えるか」に改善の余地を見出そうとします。
もちろん、わかりやすく伝えるスキルや、構造的に整理された研修プログラムの価値は大きいものです。

しかし、今の時代においてそれだけでは不十分です。
なぜなら、“相手が学びを受け取れる状態かどうか”という前提条件が、大きく変わってきているからです。

こうした“受け手の状態”を無視して、「正しいこと」をただ一方的に届けようとしても、教育効果は頭打ちになります。

教育とは、教える側の「発信力」だけでなく、受け手の「受信力」によって成立する双方向の行為です。今後は、「受信側の変化」に応じた設計が必須です。

スマホ中心の環境に適応した“新しい学びの設計”が求められている

20代〜30代の社員の多くは、物心がついたときからスマホやSNSと共に生きてきた世代です。
情報は「探すもの」ではなく「流れてくるもの」であり、反応の早さが行動のスタンダードになっている。

つまり、脳の初期設定自体が「即時反応型」に近い世代を相手にしているということです。

教育担当者がこの環境変化を理解せず、「自分たちの若い頃と同じように教える」のでは、いつまでも手応えは得られません。

まず必要なのは、今の受け手の情報環境・行動スタイル・思考パターンを前提として受け入れる姿勢です。
そのうえで、何を・どう設計していくかを考える必要があります。

答えが見えないからこそ、“考え続ける教育者”であるべき

スマホが登場してから約15年…現在は、まだ「スマホ時代の教育」における明確な正解があるわけではありません。

たとえばどのような形式が効果的なのか、どんな順序で学ばせるのがベストなのか——
それはまだ、検証途中のテーマでもあるでしょう。

だからこそ教育担当者には、

「すぐに答えを出そうとしない」こと
「考え続ける姿勢を持ち続ける」こと

が求められます。

今起きている変化は、一時的なものではなく構造的・本質的なシフトです。

それに対して、教育・マネジメント側の“過去の成功体験”や“完成された教育パッケージ”で対応しようとするのではなく、「これはまだ途中だ」という認識を持ちながら、試行錯誤を続けるマインドセットが重要と言えるでしょう。

行動変容をデザインするという視点

これまでに見てきたように、現代人の脳は「即時的な報酬(ドーパミン)」に反応しやすくなっています。これは個人の意思やモラルではなく、脳の報酬回路がそうプログラムされてしまっているという問題が付きまといます。

即時報酬に慣れた脳は、「成果まで時間がかかる学び」に興味を持ちにくくなっていますが、この依存構造を根本的に変えることは難しくても、教育の中に“短期報酬的な要素”を意識的に組み込むことが有効です。

この“意識的な行動の再設計”によって、刺激への反応パターンをコントロールすることは可能です。

たとえば:

  • ワーク後すぐにフィードバックが返る仕組みがあるか
  • 小さな達成をこまめに可視化するチャートやログがあるか
  • 知識の習得ではなく「できた」という体験を毎回設計することができているか

これは一種のゲーム化のような発想にも近いものですが、単なる“楽しい研修”という話ではありません。「長期的な成長」へ向かう前提として、“脳が勝手に乗ってしまう足場”を意図的に用意することです。

今は「教える」時代ではなく「学べる状態を整える」時代へ

スマートフォンやSNSが日常生活の中心となり、情報環境も脳の使い方も、これまでとは大きく変わりました。
この変化は、単なるライフスタイルの変化にとどまらず、学びの質や教育の成り立ちそのものに影響を与える本質的なシフトです。

だからこそ、今の時代に教育を担う私たちは、「どう教えるか」ではなく、「どうすれば、相手が学べる状態になるのか」という問いを出発点に据える必要があります。

  • 社会環境と相手の脳の変化に合わせる
  • 「スマホ中心の生活」と「即時報酬を受け取れる情報環境」を前提とした教育システムを組み直す
  • 即時報酬の習慣から抜け出すための意図的な学びと成長の設計を行う
  • 思考停止せず、試行錯誤を繰り返しながら問いを持ち続ける
  • 教育とは“反応”を引き出すことではなく、“選択”を促すものであるという原点に立ち返る

これらの視点と姿勢を持ち続けることこそが、これからの教育者に不可欠な資質と言えるでしょう。

もちろん、明確な正解はまだありません。今はまだ、誰もが手探りの過渡期です。

しかし、だからこそ私たちには考える余白があり、挑戦できる自由があります。

「学べる状態にない相手に、どう学べる状態をつくるか?」

この問いに、真正面から向き合い続けられるかどうか。
それが、これからの教育を“アップデート”できるかどうかの分岐点になるはずです。

この記事の著者

関根 悠太

株式会社Re-Branding 代表取締役
社外1on1研修トレーナー/顧問編集者
 
経営者の言葉を最高のカタチに変える専門家であり、中小企業の離職率改善や売上拡大を支援する実践派コンサルタント。顧問編集者として、経営者の志を深掘りし、ブランドメッセージやストーリーを構築する一方で、営業コンサルタント・社外1on1研修トレーナーとして、社員一人ひとりの本音や課題に向き合い、組織力を強化する支援を行う。
 
コンサル・不動産など10業種以上の現場経験を経て、2023年に株式会社Re-Brandingを設立。Webメディア立ち上げや顧客インタビュー、社内外での研修プロジェクトに携わり、離職率40%削減や売上140%向上といった成果を創出してきた。
 
これまでに執筆したブログ記事は200本以上、インタビュー記事は50本、ライティング経験は合計1000通以上。独自のアプローチで経営者のビジョンを言語化し、企業ブランディングや課題解決に貢献している。また、「社長と社員の翻訳機」として、双方の橋渡し役を担い、信頼関係の構築を通じて企業成長を加速させる。
 
【主な実績】
・離職率を40%削減し、年間2000万円の採用育成コストを削減
・営業改革により売上140%向上を達成
・セミナー販売成約率70%超、クライアントが国際的大会でグランプリ獲得
 
【専門分野】
離職防止と組織力強化/営業プロセス改善/言語化を通じた企業ブランディング
  
「一人ひとりの本音に向き合い、課題の本質を共に探り、解決へ導く」ことを信条に、企業の未来を共に形作るパートナーとして活動中。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

プライバシーポリシー / 特定商取引法に基づく表記

Copyright © 2023 株式会社Re-Branding All rights Reserved.

CLOSE