「やれ」と言われたことには、必ず目的がある
― 不動産仲介、新人営業マンが覚えるべき“4つの視点” ―
不動産仲介営業の研修をしていると、よく感じることがあります。
それは、新人営業マンが
「何をやるか」は覚えているけれど、「なぜやるのか」までは腹落ちしていない
ということです。
たとえば、
- 予算設定をしましょう
- 購入タイミングの話をしましょう
- 事前審査につなげましょう
- 条件を整理しましょう
- 優先順位を明確にしましょう
こうした営業プロセスがあります。
会社からすれば、どれも意味があるからやっていることです。
でも新人の立場だと、
「言われたからやる」
「マニュアルに書いてあるからやる」
「研修で教わったからやる」
という理解で止まりやすい。
これだと、現場で少しズレが起きたときに動けなくなります。
なぜなら、
目的が分かっていない行動は、応用がきかないからです。
営業のすべての言葉には、目的がある
まず大前提として、営業現場で使う言葉やプロセスには、必ず目的があります。
何となく聞いているわけではありません。
何となく話しているわけでもありません。
▶︎予算を聞くのにも目的がある。
▶︎事前審査を勧めるのにも目的がある。
▶︎購入時期の話をするのにも目的がある。
▶︎中古と新築の違いを説明するのにも目的がある。
それぞれに、
- 何のためにやるのか
- 誰のためになるのか
- やらないと何が起きるのか
があります。
ここを理解せずにトークだけ覚えてしまうと、
現場ではどうしても薄くなります。
言葉は出ている。
でも、伝わらない。
会話はしている。
でも、お客様が動かない。
そういうことが起きます。
「目的」は2つの軸で考える
営業における目的を考えるとき、まず大きく2つの軸があります。
1つ目は、
営業側・会社側にとっての目的です。
会社は利益を出さなければいけません。
営業マンも売上を作らなければいけません。
だから、営業プロセスの中で行うことは、必ず営業側にも意味があります。
もう1つは、
お客様側にとっての目的です。
ここがもっと大事です。
お客様にとって意味がないことを、営業都合だけでやらせようとしても、基本的にはうまくいきません。
お客様にもメリットがある。
お客様の不安が減る。
お客様の迷いが整理される。
お客様の失敗を防げる。
だからこそ、その話をする必要があるわけです。

さらに言うと、目的は4つに分けて考えられる
ここでもう少し整理します。
営業の言葉やプロセスを考えるとき、私は4つの視点で見ると分かりやすいと思っています。
それがこれです。
- 営業側が、それをやるメリット
- お客様側が、それをやるメリット
- 営業側が、それをやらないデメリット
- お客様側が、それをやらないデメリット
この4つです。

この4つで考えると、
「なぜそれをやる必要があるのか」がかなり明確になります。
逆に、ここが言語化できていないと、
「会社に言われたからやる」
「なんとなく必要そうだからやる」
「先輩が言っていたからやる」
で止まってしまいます。
それでは、現場でお客様に説明できません。
例:なぜ、最初に物件予算を決める必要があるのか
ここからは、営業現場で最初に必要な物件予算の設定を例に考えてみます。
新人営業マンにとって、予算設定はかなり大事なテーマです。
でも、ただ
「物件の予算を決めましょう」
と言われても、なぜ必要なのかが分かっていないと、現場で弱くなります。
お客様から、
「なんでそこまで決めないといけないんですか?」
「まだ探し始めたばかりなので、そこまで考えていません」
「いい物件があれば考えます」
と言われたときに、答えられなくなるからです。
だからこそ、予算設定の目的を4つの視点で整理してみます。
① 営業側が予算設定をするメリット
まず、営業側のメリットです。
予算が決まると、営業はかなり動きやすくなります。
なぜなら、
提案する物件の価格帯が絞れるからです。
たとえば、予算が決まっていない状態だと、
- 3,000万円台を見るのか
- 4,000万円台を見るのか
- 5,000万円台まで見るのか
判断できません。
そうなると、物件提案が散らばります。
エリアも散らばる。
価格も散らばる。
月々の支払いも見えない。
結果として、営業側も提案の軸が作れなくなります。
逆に予算が決まっていれば、
- 提案する価格帯
- 月々支払いの目安
- 住宅ローンの借入額
- 無理のない資金計画
が見えてきます。
つまり、営業側にとって予算設定は、
提案を具体化するための土台です。
ここが決まっていないと、営業は次に進みにくい。

② お客様側が予算設定をするメリット
次に、お客様側のメリットです。
ここを説明できない営業マンは多いです。
営業側の都合だけで考えていると、
「予算を決めてください」
になってしまう。
でも、お客様からすれば、
「まだそこまで決めてないんですけど」
「いい物件があれば考えたいんですけど」
となります。
だから、お客様側のメリットを言語化する必要があります。
予算設定をすることで、お客様にとって何が良いのか。
一番大きいのは、
迷う時間が減ることです。
予算が決まっていないと、お客様は延々と物件を見続けることになります。
少し高い物件を見て、
「やっぱりこれいいですね」
でも買えるか分からない。
少し安い物件を見て、
「でもちょっと物足りないですね」
また迷う。
この繰り返しになります。
予算を決めるというのは、
お客様を縛るためではありません。
むしろ、
無駄に迷わないための基準を作ることです。

予算があるから、物件を正しく比較できる
予算が決まると、物件の見方も変わります。
たとえば、
「この物件は予算内だけど、駅距離が遠い」
「この物件は少し狭いけど、支払いは安心」
「この物件は理想に近いけど、支払いが重い」
こうやって比較できるようになります。
予算がない状態では、比較軸がありません。
なんとなく良い。
なんとなく高い。
なんとなく不安。
この“なんとなく”がずっと続きます。
だから予算設定は、お客様にとっても大事なんです。
③ 営業側が予算設定をしないデメリット
次に、営業側が予算設定をしないデメリットです。
これは分かりやすいです。
予算を決めないまま進めると、営業側はかなり苦しくなります。
- 提案する物件の幅が広がりすぎる
- お客様の希望が収拾つかなくなる
- 物件探しに時間がかかる
- 資金計画が立てられない
- 住宅ローンの事前審査にも進みにくい
- 次の提案につながらない
つまり、営業として次のステップに進めません。
これは営業側にとって大きなロスです。
時間のロス。
労力のロス。
提案機会のロス。
場合によっては、上司からも言われます。
「予算は固まってるの?」
「ローンは見えてるの?」
「そのお客様、次どう進めるの?」
ここに答えられないと、営業としてかなり苦しくなります。

④ お客様側が予算設定をしないデメリット
最後に、お客様側が予算設定をしないデメリットです。
ここが一番大事です。
なぜなら、お客様に説明するときには、ここを伝える必要があるからです。
お客様は、営業側の都合では動きません。
「営業が提案しやすいから予算を決めましょう」
では、お客様は動きません。
お客様にとって、
「確かに決めておいた方がいいな」
と思える理由が必要です。

予算を決めないと、買えない物件を見続ける可能性がある
予算を決めないまま物件を見続けると、
買えるか分からない物件まで見てしまいます。
これが一番もったいない。
たとえば、実際には3,800万円くらいが無理のない予算だったとします。
でも、それを決めないまま4,500万円、5,000万円の物件を見続けていたらどうなるか。
当然、良く見えます。
広い。
新しい。
駅に近い。
設備もいい。
でも、いざ現実的に支払いを考えると無理がある。
すると、それまで見ていた時間が無駄になります。
それだけではありません。
高い物件を見た後に、現実的な価格帯の物件を見ると、どうしても物足りなく感じます。
つまり、判断基準がズレてしまう。
これは、お客様にとって大きなデメリットです。
事前審査に進めないと、気に入った物件を押さえられない
予算設定は、住宅ローンの事前審査とも関係します。
いくらまで借りられるのか。
月々いくらなら無理なく払えるのか。
金融機関から見て、どの程度の借入が可能なのか。
ここが見えていない状態で物件を探しても、
気に入った物件が出たときにすぐ動けません。
「この物件いいですね」
となっても、住宅ローンの裏付けがなければ、買えるかどうか分からない。
その間に、他の人に決まってしまうこともあります。
つまり、予算を決めないことは、
良い物件に出会ったときに動けないリスクにもつながります。
だから、予算設定は営業都合ではない
ここまで考えると、予算設定は営業側だけの都合ではないことが分かります。
もちろん営業側にもメリットはあります。
でも、それ以上にお客様にとっても大事です。
- 無駄に迷わない
- 買えない物件を見続けない
- 判断基準を持てる
- 住宅ローンの見通しが立つ
- 良い物件が出たときに動ける
これだけの意味があります。
だからこそ、営業マンは自信を持って予算設定の話をしていいんです。
「なんでそれを聞くんですか?」に答えられるか
営業現場では、お客様からこう聞かれることがあります。
「なんでそこまで聞くんですか?」
「まだ決めてないんですけど、今必要ですか?」
「とりあえず見てから考えたいです」
このとき、営業マンが目的を分かっていないと止まります。
でも、目的が分かっていれば答えられます。
たとえば、こうです。
「もちろん、最初から細かく決め切る必要はありません。
ただ、物件の価格帯をある程度決めておかないと、買えるか分からない物件まで見続けることになってしまいます。
そうすると、時間も使いますし、判断基準もズレやすくなります。
なので、まずは無理のない予算感を一緒に整理した上で、その中でどんな選択肢があるかを見ていければと思っています」
こう言えたら、お客様は納得しやすくなります。
なぜなら、それが営業都合ではなく、お客様のための説明になっているからです。
目的が分かると、行動に迷いがなくなる
ここで新人営業マンに伝えたいのは、
目的が分かると、行動に迷いがなくなるということです。
逆に言うと、行動が止まるときは、だいたい目的が曖昧です。
なぜこれを聞くのか。
なぜこの話をするのか。
なぜこの順番で進めるのか。
ここが分かっていないと、現場で言葉が弱くなります。
少しお客様に抵抗されただけで、
「やっぱり聞かない方がいいのかな」
「ここまで聞くと嫌がられるかな」
と止まってしまう。
でも目的が分かっていれば、
「これはお客様の判断基準を作るために必要な話だ」
と理解できます。
だから、ちゃんと聞ける。
会社に「やれ」と言われたことには、理由がある
もちろん、会社が言うことがすべて正しいと言いたいわけではありません。
ただ、少なくとも営業のプロセスやトークには、何かしらの意図があります。
- なぜこの順番なのか
- なぜこの質問をするのか
- なぜこのタイミングで話すのか
そこには必ず理由があります。
でも、多くの場合、その理由が十分に言語化されていない。
だから新人は、
「やれと言われたからやる」
になってしまう。
ここがもったいない。
やる理由が分かれば、行動は変わります。
4つの視点で考える癖をつける
だから、新人営業マンにはぜひこの4つの視点を持ってほしいです。
何か営業プロセスを学んだとき、必ず考える。
- これをやることで、営業側にどんなメリットがあるのか
- これをやることで、お客様にどんなメリットがあるのか
- これをやらないことで、営業側にどんなデメリットがあるのか
- これをやらないことで、お客様にどんなデメリットがあるのか
この4つです。

これを考えるだけで、営業の理解度はかなり変わります。
たとえば、
- 購入タイミングの話
- 事前審査の話
- 中古と新築の比較
- 優先順位の整理
- エリア選定
- 次回案内の提案
全部、この4つで考えられます。
目的を考える人は、トークの使い方を間違えない
トークを覚えることは大事です。
でも、トークだけ覚えても現場では弱いです。
なぜなら、トークはあくまで手段だからです。
大事なのは、
そのトークが何のために存在しているのか
です。
目的が分かっている人は、トークを状況に合わせて使えます。
目的が分かっていない人は、トークをそのまま読むだけになります。
この差は大きいです。
最後に
営業において、言葉はただの言葉ではありません。
質問にも、説明にも、順番にも、必ず目的があります。
そしてその目的は、営業側だけのものではありません。
お客様にとっても意味があるから、やるんです。
だから新人営業マンには、
「何をやるか」だけでなく、
「なぜやるか」まで考える癖を持ってほしいと思っています。
目的が分かれば、行動に迷いがなくなります。
お客様に聞かれても説明できます。
上司に確認されても答えられます。
そして何より、営業の一つ一つの行動が、ただの作業ではなくなります。
営業とは、目的のある行動の積み重ねです。
その目的を理解したとき、
新人の動きは大きく変わっていくのではないかと思います。

