マジか…
2024年6月27日 22:10 ホテル日航アリビラの客室
祐太は慌てていた。
「もし来なかったら、那覇で豪遊して帰ろう。」
祐太は、そう思っていた。
だけど、もし本当に会えたなら、その日に伝えることは決めていた。
綾ちゃんにインタビューすると良いよ
当時、祐太が関わっていたプロジェクトで「インタビュー記事制作」という仕事があり、そのインタビュー対象者として綾子が指名されたのが、最初の出会いだった。
令和っぽく、初めての出会いはオンライン、zoom上だった。
保育士から医療系のOL、そしてカメラマン。岩手から東京を飛び越して沖縄へ。
自己否定を重ねて、孤独を味わっていた頃から、一念発起して沖縄でフォトスタジオの店長になるまで。2時間かけてのインタビューだった。
「まさか、泣くと思ってなかったです。」
綾子の半生と沖縄に行く時の覚悟や想い。
話しを深めるうちに、気がづくと、お互い泣いていた。最初のキッカケは、こんな所からだった。
(このストーリーが全員に伝わって、悩んでいる人の後押しになるものにしなきゃ)
やったことない仕事だったが祐太のライティングにも力が入り、2000字のインタビューを一気に書き上げた。
えー!本島まで来るんですかぁ?
納品後、仕事で石垣島へ行く予定があった祐太は「終わったら本島に行くのでご飯でもどうですか?」と、綾子を食事に誘った。
「このお店、行ったことないので行ってみたいです!」
綾子が希望したのは、うるま市内の小洒落たイタリアン料理店だった。
(よし、これで準備は完了!)
祐太は意気揚々と[石垣→那覇行き]の航空券を予約した。
すいませ〜ん!お待たせしましたぁ〜!
恩納村でフォトスタジオを経営していた綾子は、ビーチ撮影の終わりに車を飛ばして空港に向かったが、予想以上の渋滞で予定よりも30分遅れた到着だった。
「初めまして〜! あ、全然大丈夫です!」
「あ!僕、運転しますよ!綾ちゃん、疲れてるでしょ?こっち(助手席)に乗ってもらって。」
(え、これ私の車なんだけど…ま、いっか。)
うるま市まで1時間半のドライブ。その車内・・・
「この前は綾ちゃんの話をたくさん聞いたので、僕のことも話しますね!」
意気揚々と自分の話を始める祐太・・・
(この人、ずっと自分の話ばっかりしてる…)
(てゆうか、この人、何歳? 40歳くらいかな? 歳上? そもそも何の為に来たの?笑)
(それにしても、ずっと話してるんだけど…怪しい?なんか騙そうとしてる?)
綾子はこの怪しい髭男を終始観察していた。
「次の信号、左に曲がってください。ちょっと休憩しましょ♪」
そう言って立ち寄ったのは、沖縄随一の観光スポット・アメリカンビレッジだ。
「すご〜!ここはビール飲みたくなる〜!」
(運転するって自分で言ったのに。ま、仕方ないか。沖縄に来たら浮かれたいよね〜)
「飲んでも良いですよ〜。私、運転するので。」
「ん〜!サイコウ!」
勝手に運転して、乙女心は置き去りで一人でずっと喋り、そして気づいたらビールを飲んでいる。なんとも自分勝手な男。関根祐太。
「綾ちゃん、写真撮ろ!」
初めて会って1時間。記念すべき初めてのリアルでツーショット。
(あ〜、この写真、拡散されて後であの人たちに色々イジられそうだなぁ…)
綾子はずっと警戒と疑心。
祐太だけ、とにかく浮かれていた。
とりあえず乾杯しましょ!
本場のイタリアで修行したシェフが腕を振るう、イタリアBAR「Amelia」。
レトロな雰囲気のレストランだ。
(ここ行ってみたかったから、来れて嬉しい〜!なんかデートみたい笑!)
(でも、もう二度とこの人と会わないかもしれないな〜)
沖縄に行ってから、繋がりを得るために誰かと二人で食事に行くことが多かった綾子は、祐太と食事をしている時間を、何の気にも留めていなかった。
(明るくて真面目な人なんだな〜。顔赤いな〜。さっきもビール飲んで顔赤くなってたし…)
(お酒弱いのに、無理して飲んでるのかな〜)
観察が好きな綾子は、ただただ祐太を観察していた。
「次は白ワインが良いです♪」
綾子の希望で、チリ産の白ワインを1本注文した。
この時点で、明らかに祐太の方が酔っ払っている。
やっぱり、この人、酔ってる?!
メインディッシュも食べ終わった頃、祐太が突然、口を開いた。
「綾ちゃん。『今日はこれを言う』って決めて来たことがあるんだけどさ…
綾ちゃん、付き合ってください!」
「えぇぇぇ〜!うそぉ!」
(いきなりこんなこと言って、この人、大丈夫?! やっぱり、酔っ払ってる?!)
飲んでいる場で、あまりの不意打ちと、祐太に対して恋愛感情など1%も抱いていなかった綾子は、目を丸くして祐太を見た。
「いや。会って最初の3秒で違和感を抱かなければ、言うことを決めてのよ。
ほら、あの記事作った時に色々話聞いたじゃん? 素敵だな〜と思って。確かに飲んでるし、酔ってるけど…付き合ってください!」
「えぇぇ〜〜〜!」
(まだ会って3時間くらいしか経ってないんだけど…ま、いっか! 明日帰ったら、もう会わないかもしれないし。笑。)
「はい」
綾子は、小さな声で一言だけ返した。同じ熱量で2回言ってきたことが、唯一の信用だった。
違うお店、行く?
お腹もいっぱいになり、心もいっぱいになり、少し気分を変えようとそのまま近くにあったバーに行くことにした。
可愛過ぎてたまらない綾子と、ロックグラスに注がれたウイスキーを前に、祐太はひたすら考えていた。
(遠距離だなぁ…)
(綾ちゃん4つも歳上だし…そもそも、この歳になって20代みたいな付き合い方をする気は無いし…というか、この年になったら、今結婚の覚悟を決めるのも、1年後に決めるのも、一緒だよな〜)
(いや、でも『沖縄を離れて東京に来い』って… ならないな… 埼玉と沖縄… 遠距離のままずっと? ん〜どうする…?)
自分から付き合ってくれ、と言った良いものの、遠距恋愛のその後の計画などあるわけもなく。酔った頭をフル回転させて考え続けた。
そして、祐太は閃く。
「綾ちゃん!俺、半年以内に沖縄に来る!だから、結婚しよう!」
「俺、1年も遠距離で付き合うのは無理だわ!たぶん、気が持たない。だけど3ヶ月で色々段取り組むのは難しい。だから、半年!半年以内に沖縄来るから、結婚しよう!」
(先のことはOKが取れたら考えよう)
内心、そう考えていた祐太の心拍数と体の火照り具合はピークに達していた。
(え、まだ会って6時間くらいなんだけど…)
(付き合うって決めたの、2時間前なんだけど…)
(ま、でも、30も越えたし。付き合ってみないと分からないしなぁ〜)
(今までこんなこと無かったし、人生でこういうことがあっても、いいか。笑)
(明日には帰るって言ってるし、次会えるのかも分からないけど、その時はその時で。笑)
(とりあえず、OK出しておけばキッカケをくれた人の顔も立つし。笑)
「はい、お願いします♪」
2023年1月26日 21:73
初めて会って0日 交際期間2時間
絵に描いたような「0日婚」カップルの誕生!
が、しかし・・・
このままはマズイ…俺、どうする
付き合うも結婚も、たった6時間で事が進んだ2人。
だが、翌日10時には沖縄を発つ予定だった祐太は、依然としてソワソワしていた。一緒に居れる時間は、もう短い。
(このまま帰ったら、「あの男に酔った勢いで言われた」って確実に思われるな…
それはマズイ。口だけ野郎にならない為に、俺、どうする…?)
(「やっぱり、ごめんなさい…あなたのことを信用できません」となることだけは、避けなきゃ)
(いや〜〜〜どうする。 俺・・・?! 何か策はあるか?!考えろ!)
祐太の頭の回転数はピークに達していた。
「わかった!綾ちゃん!」
祐太の声がいきなり大きくなった。
「明日の帰る飛行機はキャンセルする!明後日の現場仕事もキャンセルの連絡をする!
だから、明日、フォトスタジオのオーナーさんに結婚の報告をしに行こう!綾ちゃんのスタジオも見てみたいし!」
1度会っただけでお互いのことなど分かるわけもなく。
「また会おうね〜」と言って、本当に会う人なんて一握り。
そして、埼玉と沖縄、1500km…
(?! キャンセル代100%なのに、お金払ってまで行くって…それなら、ちょっとは本気なのかしら…?)
(お世話になっている人に挨拶だなんて、ちゃんとしてる人なのね)
(こんなことする人なんて、なかなか居ないかもしれない)
今日を過ぎれば二度と会わないかも…
そう思っていた綾子の心は、祐太の行動によって大きく動かされて行った。
・・・
続きが気になる人は、また、どこかで・・・
執筆:祐太
監修:綾子
この物語はノンフィクションです。